JR東労組「3万5000人」大量脱退に蠢く秘密組織 コードネーム「トラジャ」が落とした深い影 西岡 研介 : ノンフィクションライター 2019/09/20 5:20

こういう部分は知る人ぞ知る部分なので(知らない人はまったく知らない)どんどん知られるようになるといいですね。

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JR東労組「3万5000人」大量脱退に蠢く秘密組織
コードネーム「トラジャ」が落とした深い影
西岡 研介 : ノンフィクションライター
2019/09/20 5:20
https://toyokeizai.net/articles/-/302549
昨年春に起きた、JR東日本の最大労組「JR東労組」からの、3万5000人もの組合員の大量脱退。この事態の背後には、どのような謎が隠されていたのか。
このほど上梓した『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』で、JR東日本JR北海道で今、何が起きているのかを深くえぐった西岡研介氏が解き明かす。
民営化初の「スト権行使」通告
あっけないものだな……。
それが昨春、日本最大の鉄道会社「東日本旅客鉄道株式会社」(JR東日本)の最大組合、「東日本旅客鉄道労働組合」(JR東労組)から3万人以上もの組合員が次々と脱退し、瓦解していく様を目の当たりにしたときの、私の率直な感想だった。
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2018年2月1日の時点で、JR東労組には、JR東日本社員約5万4880人(2019年4月1日現在で約5万3200人)の8割以上に相当する約4万6900人が加入していた。
しかし同月6日、JR東労組春闘での団体交渉の席上、ベースアップのあり方をめぐり、会社側に「ストライキ権の行使を含めた、あらゆる戦術行使に必要な手続きに入る」と通告した。
JR発足後30年の歴史で、JR東労組JR東日本に対し、スト権行使を通告するのはこれが初めてのことだった。
JR東日本では2012年4月から、新たな賃金制度を導入。定期昇給を等級ごとに金額で管理する「所定昇給額」を新設し、この所定昇給額をベースアップの算出基礎としていた。
これに対しJR東労組は、所定昇給額をベアの算出基礎にすれば、組合員の給料「格差」が拡大していくとの理由から、この算出方法を「格差ベア」と呼称。2018年の春闘で「格差ベアの永久根絶」を掲げ、すべての組合員一律に同じ金額のベアにする「定額ベア」を求め、さらにそれを将来的にも実施することを要求したのだ。
しかし会社側は、この組合側の要求について「入社間もない若手と経験値の高いベテランのベアがつねに同額でなければならないことは、実質的に公平を欠く結果を招来しうる」などとして、「到底認められない」と拒否。
さらに同月26日、スト権行使を通告してきた組合に対し、旧国鉄が分割・民営化され、JRが発足した1987年以来、「労使協調」をうたい、30年余りにわたって締結を続けてきた「労使共同宣言」の失効を通知した。
国鉄・分割民営化、JR発足から約30年の歴史で、JR東日本JR東労組に対し、公然と対決姿勢を示したのもこれが初めてのことだった。
このJR東日本による、約30年に及ぶ労使共同宣言の実質的な破棄によって、JR東労組から、3月に約1万3000人、4月にはさらに約1万4000人の組合員が脱退。脱退の動きはその後も止まることを知らず、約1年後の2019年4月時点で、脱退者は約3万6000人に達し、JR東労組はわずか1年の間に、その勢力を約1万900人にまで落としたのだ。
極左暴力集団」による支配
このJR東労組を、国鉄・分割民営化以来20年余りにわたって牽引してきたのは、松崎明氏(2010年12月に死去)。
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国鉄時代、「スト権スト」(公共企業体だった国鉄の労働者に認められていなかったスト権を要求して行われたスト)など過激な闘争方針で知られ、「鬼の動労」と呼ばれた「国鉄動力車労働組合」を率い、警察当局から「極左暴力集団」とみなされる「革マル派」(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)の「ナンバー2」だった人物だ。
国鉄分割・民営化前年の1986年、動労委員長だった松崎氏は、それまでの分割・民営化反対の方針を180度転換。賛成に転じ、過去に激しく敵対してきた「鉄道労働組合」(鉄労)などと手を結び、JR東労組や、その上部団体である「全日本鉄道労働組合総連合会」(JR総連)を結成した。JR発足後は、JR総連の副委員長を務めるとともに、JR東労組の委員長に就いた(その後はJR東労組の会長、顧問となった)。
このため、JR東労組をはじめとするJR総連傘下労組は今も、旧動労の血を色濃く残す一方で、警察庁警備局をはじめとする公安当局は、JR東労組JR総連の〈影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している〉(2018年2月23日政府答弁書)とみている。
JR東日本発足後、前述の労使共同宣言に象徴される「労使協調」の美名の下で培われてきた同社の歴代経営陣と、松崎氏ら革マル派活動家が〈影響力を行使〉するJR東労組との労使癒着は、組合による人事権への容喙(ようかい)を招き、「JR東労組(組合員)ニアラザレバ(JR東日本)社員ニアラズ」という悪しき企業風土を醸成してきた。
そして、その企業風土は職場規律の乱れを生み、過去には刑事事件にまで発展。逮捕、起訴され有罪判決を受けた組合員の中には、当然のことながら革マル派の活動家も含まれていた。
今から13年前のことだ。私は、2006年7月から約半年間にわたって、「週刊現代」誌上で、このJR東日本のいびつな労使関係を問う連載キャンペーンを展開し、翌2007年6月には、その連載を基にした単行本『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)を上梓した。が、この間、JR東日本の堅牢な労使関係はびくともしなかった。
ちなみに、「マングローブ」とは、国鉄・分割民営化前年の1986年、松崎氏が、分割・民営化後のJR各社の労働組合における「革マル派組織の防衛と拡大」を目的に、JR内革マル派(JR革マル)の優秀な幹部活動家を集め、結成した秘密組織の呼称だ。
しかし、その『マングローブ』の出版から12年後、前述のとおり、JR東日本が「労使共同宣言」の実質的な破棄を表明した途端に、「鉄の結束」を誇っていたはずのJR東労組から約3万人の組合員が、まさに雪崩を打つように脱退したのだ。あっけないものである。
だが実は、JR東日本はこの間、JR東労組JR総連の精神的支柱で、両組合の「人格的代表者」とまで称された前述の松崎氏の死を機に、JR東労組に対する攻勢を一気に強め、組合の弱体化を図る施策を次々と繰り出していたのだ。そして、彼らを「スト権の行使通告」という“暴発”にまで追い込んだのである。
革マル派秘密組織のコードネーム「トラジャ」
今回、上梓した『トラジャ――JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』では、松崎氏の死を機に、JR東日本JR東労組への攻勢を強め、暴発へと追い込んでいく過程を含め、同社の現経営陣がそれまでのいびつな労政の転換を図るまでの経緯、すなわち、JR東日本はいかにして、国鉄・分割民営化後の30年余りにわたりJR革マルの呪縛から解き放たれか――を描いた。
「トラジャ」とは、前述の「マングローブ」と同様に、松崎氏が作った革マル派の秘密組織だ。松崎氏は、マングローブを結成した1986年、動労国労国鉄労働組合)出身の有能な革マル派の構成員を、「職業革命家」として革マル派党中央に送り込んだ。その1年後に、これらのメンバーを、革マル派党中央の「労働者組織委員会」の中で「トラジャ」と名付け、マングローブをはじめ、革マル派傘下の教職員や郵政など、各産別労組の指導にあたらせたという。
私が、前著に続いて革マル派の秘密組織のコードネームを、メインタイトルに据えたのは、この本が『マングローブ』の続編という性格を持つからだけではない。今回のJR東労組の「スト権行使」通告や、それを機に始まったJR東労組の崩壊にも、この「トラジャ」が深い影を落としているからである。
『トラジャ』では、前著ではさまざまな理由から触れることができなかった、沖縄や東京を舞台とした「JR革マル」vs.「革マル派党中央」の壮絶な内ゲバについても詳述した。
そして今なお、〈影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している〉とされるJR総連傘下単組を「最大組合」として抱える、JR北海道JR貨物の実態にも迫った。
2019年4月時点で3万6000人に達した、JR東労組からの脱退者は今なお、いずれの労働組合に所属しておらず、JR東日本における労働組合の加入率は約3割にまで低下している。
それは、故・松崎氏が動労時代から志向してきた「戦闘的国鉄労働運動」の終焉を意味するだけではなく、現在の日本の労働組合、とくにその6割以上を占める、従業員数1000人以上の大企業の「企業内労組」が直面する現実を改めて浮き彫りにしている。