「こんにちは。斎藤光太郎です」。NHK-FM『ひるの歌謡曲』とは。松本伊代「あなたとアゲイン」とは。

その昔。ウォークマンが出始めた頃。

音楽コンテンツはありませんでした(ステレオも同時に普及をはじめた時期なのでレコード等の音源は出始めたばかり。誰もが豊富に音源を揃えていたわけではなかった)。

ウォークマンで何かを聴く。そのときにはテープを自分で作る必要があったのです。

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必然的に使われるのがおなじみの NHK-FM 『ひるの歌謡曲』 である。12:15~13:00までと丁度46分テープに収まる。ちょうど昼食時。自宅にいればエアチェック三昧である。ラジオを録音すれば自分なりのテープが作れるのである。

普段はとんでもないど演歌・懐メロのオンパレードなのである。フランク永井とかディック峰とか東海林太郎とかそんなのばかり流してる。バブルがはじまる直前の時代なのに、昼食時にラジオをつけると戦中戦後のそんな歌ばかり流れてくるのだ。

凄かったですねー。

本当凄かったですね。

現代の環境でバブル時代を振り返る水準じゃないのですよ。ギャップが激しすぎる。焼け跡に建つバラックの状況までイメージされるような状態なんだ。若い衆(※私たち)が POPEYE や HotDogPress や Be-Pal なんかのカタログ雑誌眺めてるときに、FMから流れてくるのは昔恋しい銀座の柳なのである。しかしバブルから30年も遡ると李承晩ラインとか血のメーデー事件とか「日本国との平和条約」発行とかのまじもんの戦後統治時代なんだ。日本は未だ独立していなかった。日本に主権はなかった。国として存在してるのか怪しいような状況である。1980年頃の働き盛りの年代が彼らの若い頃を振り返ると、必然的にそういう曲ばかりになってしまうのである。

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救済措置はありました。

『ひるの歌謡曲』でも月あたり1回くらい、1週間程度の特集で現代の音楽をかけている。といっても半分くらいはフォーク音楽やニューミュージックである。これがまた昔の学生運動引きずってて強烈なのなんの。学生が角材もってヘルメットかぶって暴れてた時代のそれである。聴いてて半分顔面蒼白。それらを外して流行の音楽がかかるのは、なんと3ヶ月に1回なのである。

ではどうするのか?

みなFM雑誌を購入し、赤ペンをもって2週間分の放送予定をチェックして、曲が流れるまでラジオの前で待機するのである。デッキには新品のテープを入れ、アナウンサのナレーションを聞きながらタイミングを測っている。何時何分ごろどんな音楽がかかるのか雑誌上ですべて周知されているのである。

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待ちに待ってやってきた。アイドル特集だ。早見優石川秀美も並んでる。ああ長かった。デビューして1年半はこのゾーンでオンエアされないのです(お昼ご飯の時間帯なのにですよ!?)。夏休みや冬休みの直前とか、そんな時期まで待たなくてはならない。「アイドルなんて音楽じゃない」ってまじめに思われてた時代なのだ。

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冒頭から驚いた。すっげえのである。

「あなたとアゲイン」である。ファーストアルバム『センチメンタル I・Y・O』の5曲目である。『ひるの歌謡曲』はなんとこの曲を伊代ちゃん特集のトップにもってきた。シングルカットされてない、アルバムのオープニングでもないのである。その後にはなんと「スクランブル交差点」「プールサイドで待つわ」なのである。「ハート・コレクション」なのである。「恋は BAN BAN」「笑ってハートブレイク」なのである。珠玉の名曲ばかりである。他の歌手ではそういう並びになってない。他の歌手ではシングルを流してるだけなのである。

松本伊代は違うのだ。デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」は半分色物で大ヒットはしたのだが、それは伊代ちゃんの本質ではない。純然たるアーティストでもあったのである。

選曲眼は確かである。伊代ちゃんの良さは聴けばわかるのだ。アナウンサの齋藤光太郎ものりのりである。さすがの伊代ちゃん特集だったのである。