読むべき『ハード赤字で急成長、ポスト小米の危うき戦略』。大槻智洋 TMR台北科技 代表 日本経済新聞 2016/11/17 6:30。

ハード赤字で急成長、ポスト小米の危うき戦略
大槻智洋 TMR台北科技 代表
2016/11/17 6:30
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO09232090X01C16A1000000/?dg=1

 中国のスマートフォンスマホ)市場の成長企業と言えば「小米(シャオミ、Xiaomi)」――。

図1 LeEcoが2016年9月に発売した5.5型のスマホ「楽 Pro3」
 変化の早い中国では、こんな“常識”はもはや過去のものになってしまった。一時期、創業者が「中国のスティーブ・ジョブズ」などとメディアでもてはやされた小米に代わって今、スマホ市場の“風雲児”と見られているのがLeEco(楽視網信息技術、読みは「ルイコ」、以前の英文名はLeTV)である。

 特異なビジネスモデルをひっさげ、2016年はスマートフォンスマホ)の世界販売で7位をうかがう急成長を見せている(図1)。ところが、LeEcoには“危うさ”がつきまとう。早くも急成長に伴うひずみが露呈し、資金ショートを危ぶむ声さえ噴出している。LeEcoの成長と危うさについて、中国スマホ事情に詳しいTMR台北科技の大槻智洋氏に2回にわたって解説してもらう。

 2016年10月19日、LeEcoは米国市場への参入を宣言した。米国の発表会に登壇した同社の幹部は、innovative(創造的な)ではなく「disruptive(破壊的な)」というよりインパクトが強い言葉を連呼、中国での急成長の勢いそのままにアグレッシブな姿勢を見せた(図2)。「テレビ、スマホ、電気自動車(EV)、ヘッドマウントディスプレー(HMD)、自転車を対象に、クラウドを介してハードウエア、ソフトウエア、コンテンツ(スポーツ番組や音楽)を提供していく」(同幹部)

図2 米国での発表会の様子(画像:LeEcoがYouTubeで公開しているイベントの動画より)

図3 創業経営者のYT(Yueting) Jia氏
 事業領域をこれまでのテレビやスマホといった一般消費者向けのデジタル機器から、EVなどにも広げるというのだ。LeEco創業経営者のYT Jia(賈躍亭)氏は、100億元(1540億円)以上をEV事業に投下したという。同氏は、EV事業に参入して米Tesla Motors(テスラモーターズ)から主役の座を奪うという壮大な野望を抱いている(図3)。

■端末販売で損するビジネスモデル

 LeEcoは数年前まで、動画配信や映像制作を手掛ける中国に数ある企業の一つでしかなかった。しかし、2013年にテレビやスマホ事業に参入。販売台数を猛烈な勢いで伸ばしている。

 昨年まで、中国スマホ市場の注目企業といえば明らかに小米だった。2010年創業の小米は、プレミアム感を演出する戦略が当たって急速に販売台数を伸ばし、2014年7〜9月期からはスマホの世界販売で常に3〜5位につけていた。しかし、格安ブランドの投入と拡大から失速を招き、ついに2016年には中国での販売台数も首位から5位へと転落した。小米に代わって、昨年ごろから中国や台湾のエレクトロニクス業界関係者が最も注目している企業がLeEcoなのだ。

 LeEcoが急成長している理由は明快だ。製品のコストパフォーマンスが非常に高いからだ。例えば売れ筋のスマホ「楽 Max 2」。5.7型で2560×1440画素の液晶パネルを搭載したハイエンド機で、かつコンテンツの品ぞろえが他社に劣らない動画配信サービスが1年付いてわずか1697元(約2万6000円、NANDフラッシュメモリー容量が32Gバイトの場合)である(図4)。

図4 中国でトップ級の動画視聴者数。2016年上半期における月間視聴者数でLeEcoはトップクラスだった(図:LeEcoの2016年半期報告より抜粋)

 一方、小米の「小米Note」は画面寸法が同じで数百元安いが、液晶パネルの解像度は1920×1080画素で、NANDフラッシュも16Gバイトとスペックで明らかに劣る。

 筆者は、中国深圳市でLeEcoのスマホを試用する機会を得た。その時の印象は「欠点といえばカメラ機能を司るファームウエアが未成熟なぐらい」だった(図5)。

図5  LeEco製品は販売店でも購入可能。同社グループ企業は2016年から実際の店舗を続々展開している。世界最大の電気街「華強路」の一等地にも複数店舗を構えた(撮影:大槻智洋)
 LeEco製品の品質が良いのは、有力な設計・製造受託(EMS/ODM)企業に任せているからだ。テレビは台湾Foxconn(鴻海)、スマホは台湾Compal(仁寶)や台湾Pegatron(和碩)といった一流企業が担当している。

 そして、発注は極めて強気だ。「日本のスマホ企業は“保守的”で少量しか発注しない。一方LeEcoは『2ヵ月後に200万台やれるか?』などと要求してくる。無茶苦茶な納期だが、我々はやらざるを得ない」(台湾のEMS/ODM企業)。強気な発注が、高品質の裏にあることは間違いない。

■「スマホは部材コスト割れ」

 LeEcoは高品質のハードウエアを低価格で販売して急成長しているわけだが、利益は出ているのだろうか――。実は、販売コスト割れを起こしている。それどころか同社は、「スマホは数百元のBOM(部材)コスト割れ」と公言している。

 実際、2016年上半期の連結損益計算書によると、端末の仕入れに66億元(1016億円)をかけたのに対し、収入は51億元(786億円)しか得なかった。15億元(231億円)も粗利で損をしたわけだ。

 LeEcoのビジネスモデルの特異性はそこにある。同社はハードウエアで出した損失を、ドラマやバラエティー、音楽番組などの有料動画配信や広告配信サービスで取り戻そうとしている。

 こうした新たなビジネスモデルが中国人に受け、LeEco製品の累計販売台数は2016年6月までに、テレビが700万台、スマホが1000万台以上に達した。2016年単年の販売目標はテレビが600万台。スマホに関しては、台湾の調査会社Isaiah Researchは2444万台と予測している。

■米テレビ大手のビジオを買収

 さらにLeEcoは2016年、出資攻勢に出た(表)。北米のテレビ市場で韓国Samsung Electronicsサムスン電子)に次いで2位のシェアを持つ、米VIZIO(ビジオ)の買収を発表した。買収金額は約20億ドルである。スマホと同じビジネスモデルをテレビでも展開すると見られる。

表 LeEcoおよび同社の関係企業による爆買いの履歴。2016年に計28億米ドルの投資を発表。Leview Mobile HKの出資元は(←が100%出資の意)←Leview Mobile←Lele Holding←YT(Yueting) Jia(賈躍亭、LeEco創業経営者)氏。したがってLeEcoとCoolpadに資本関係はなく、Jia氏を介してつながる。なおLele Holdingの中文社名は楽視控股(北京)とみられるが、これとLeEcoにも資本関係はなく、Jia氏を介してつながる
 さらに中国のスマホやテレビ関連の企業への出資も決めている。家電企業を“爆買い”しているのだ。

 テレビやスマホに関する、前出の数値目標や予測は、表に記載した企業の販売台数を含んでいない。2015年に中国Coolpad(酷派)はスマホを2550万台、中国TCL Multimediaはテレビを135万台、米VIZIOはテレビを780万台、それぞれ販売したもようだ。

 仮に投資先企業の2016年の販売が前年並みで、かつLeEcoブランド品も目標通りの販売台数となれば、合計の販売台数シェアは「テレビで世界3位、スマホで世界7位」となる可能性もある。

■謎のEVベンチャーを仕掛ける

 イケイケの話はまだ続く。前述のように、LeEcoはEV事業で「Tesla Motorsキラー」を目指し、創業者のYT Jia氏はEVベンチャーの米Faraday & Future(FF)に出資したとみられている。

 FFはドイツBMW、イタリアFerrari、英Jaguar、イタリアMaserati、中国SAIC(上海汽車)、Tesla Motorsなど自動車業界から1400人程度が参画しているもよう。同社は米ネバダ州に10億米ドルでEV工場を建設する計画で、2016年4月に着工した。

 Jia氏はLeSee(楽視汽車)部門を設け、中国でもEVを製造・販売する計画だ。総予算は30億米ドル。生産能力が60万台/年のEV工場を、浙江省湖州市徳清縣莫干山に建設する。

 同氏は2016年9月、11億米ドルにおよぶ最初のEV向け資金調達ラウンドを終えたと発表した。参加した投資家はLegend holdings(聯想控股)、Macrolink(新華聯)、MSTX(民生信託)、State Grid Corporation of China(国家電網)子会社、SZVC(深創投)、宏兆基金など。LeSee(楽視汽車)部門は、SAICの元幹部が経営する。

 LeEcoのEVベンチャーへの出資の背景には、2つの戦略がある。第1に、EVのような成長分野への投資で株価を引き上げること。第2に同社が本業とする動画や広告を“いつでもどこでも”提供できるようにするためのハードウエアとして、家(テレビ)、手(スマホ)に加えて、足/移動住居(クルマ)を利用する。

 しかし、猛烈ともいえる拡大戦略のツケは早くもやってきているようだ。高品質のハードを赤字でばらまいて、コンテンツの配信で収益を上げるというビジネスも、うまく回っていない。後編では、LeEcoが抱える数々の問題と今後を分析する。(続く)

大槻智洋(おおつき・ともひろ)。1998年4月からCSKベンチャーキャピタルで投資や経営支援に従事した後、2001年に日経BP社に入社。専門誌「日経エレクトロニクス」でカメラ技術やEMS/ODM産業を軸に幅広い分野の分析記事を執筆。10年に台湾で台北科技市場研究(TMR)を設立。コンサルティング会社やエレクトロニクス関連企業に対して調査やコンサルティングサービスを提供するとともに、メディアに寄稿している。