シリーズ ここだけ80年代。ビッグコミックスピリッツ『パラダイス通信』神戸さくみ。20世紀恋愛漫画の最高傑作。

こちらも傑作マンガ 高橋留美子めぞん一刻』と同時期に、小学館ビッグコミックスピリッツに連載されていた 神戸さくみ『パラダイス通信』です。
はまりにはまりました。単行本2組所有。数百回は読み返した。
見事な構成。映画のようなストーリーなのに一切の嘘がないのです(もちろん読ませるための演出はある。しかし奇跡的なものはなにもない。誰にでも起こり得るあなたの隣人の話である)。ひとコマひとコマに情熱が注がれており、無言の仕草で何かを伝えている。明示ではなく暗示である。だから読者はその間(ま)を読み取らなくてはならない。一見、お洒落にみえる↓下部掲載の画像でも、ビンボーな肉体労働系学生バイターである主人公が、絶世の美女であるヒロインを口説こうと頑張って金を貯めお洒落なレストランで飯をおごり、しかしうっかり予算が不足し、「しょうがないわね」と財布を引き出すヒロインを前に 金を借りるのは嫌だ! と意地になって雨の中ふたり逃げ出し通路の陰に隠れているところなのです(なんだかよく分からないな。つまり若いうちによくあるミスなわけです)。そういうものを物語のキーポイントにしてしまう。「笑い」や「痛さ」で処理されてしまうものをストーリー構成のキータームにしてしまう。
主人公の少年は当時流行っていた若者向けファッション雑誌の影響を直に受け「こうすればモテる」と誤解し痛い邁進をする。その邁進はヒロイン以外の女の子には受けるのだ。ヒロインは何もかもお見通しである。そのヒロインを主人公が理解するに至る経緯がこの『パラダイス通信』の根幹だ。セックスで理解するわけではない。金で理解するわけではない。当然、美食でもクルマでもない。では何なのか? その衝撃の結末とは。
※主人公の名前が素晴らしい(苗場葉月)。ヒロインは藤野七穂。葉月は七月を意味します。
※オンデマンド印刷が可能であると聞いて驚きました。貴重な文化遺産です。出力して保存しておくべきか。
※※大傑作マンガなのに、スピリッツが隔週発売されてた時期で、かつその後の多くの恋愛作品群(トレンディドラマの原作となったものたち)に隠れてしまい、いまでは評するものがいなくなってるのです。
真の傑作。100点満点。ああこれを次世代へとつなげなくては。
※悪人の登場はゼロ! それでいて、恋愛の見たくない裏側まで全部みせてしまう。身を切られる痛さまで読者に体感させる。いまのハーレム系アニメ世代はこの作品が提示する真実に最後まで耐えられるでしょうか?

                    • -

ラストシーンは全く予想もつかないでしょう。多くの結論が準備されている恋愛ゲーム作品の環境を受け入れているいまの読者でさえそうでしょう。
私の周囲で大受けだったのはオジサンの変身シーンだ(オジサンと呼ばれる人間が登場する)。
眼鏡を外して乱闘に加わる。ボクシングをし慣れてる人間のように。彼らのバトルは翌日の新聞で『深夜の青山 大乱闘』と三面記事を飾ってしまうわけです。
第1話の扉。お洒落なのかお洒落でないのかわからない。
「おれ、やりたい!!」と性衝動に縛られていた主人公は、この後、恋愛の奥深くを垣間見ることになるわけです。

どれだけ嘘がないかの例として。
主人公は自転車乗りの肉体系バイターなわけですが、この、冒頭で着ているファッションのまま第3話まで押し通す(着てる服にいちいちメッセージが込められてる)。初回はジーパンにトレーナー、パーカーなわけです。それが徐々に変わる。雑誌の影響を受けたり、そうではなかったり。
そして乗り回され、部屋に吊るされ、分解されてしまう自転車。

※第3話で部屋着として「どてら」着てるのとか。当時の人々じゃないとわからないですね。ちょっと肌寒くなるとどてらを羽織るのです。バブル以前の時代はまだエアコンが完全普及してなくて、寒いときはどてらを羽織り、暑くなると窓を開け風通しをよくするのですよ。